映画「黒蜥蜴」、2本連続見比べてみた
江戸川乱歩原作、三島由紀夫が戯曲化した「黒蜥蜴」である。初代水谷八重子や、美輪明宏、また最近では中谷美紀で舞台化されている。
映画化されているものとしては三島由紀夫本人も出演している美輪明宏版が有名だが、京マチ子版を忘れてはならない。(美輪版はYouTubeでも見られます)。
美しいセリフを堪能するなら美輪版
美輪版と京マチ子版、まるで趣が違うのである。美輪版は、冒頭の秘密クラブの酒池肉林のエログロ風味からデカンダンス満載ですよ。しかしなんといっても、この当時の美輪明宏の美しさ。容貌の美だけでなく、宝石のような言葉が美輪様の口から朗々と語られると、それだけでうっとりしてしまう。美輪版は、美しいセリフのひとつひとつを、こちらに易々と届ける。美輪明宏の容貌とコスチュームプレイ、そしてセリフの美を堪能できるのだ。
三島由紀夫が「黒蜥蜴」で目指したものは、泉鏡花の戯曲「天守物語」なのではないか、と思う。「天守物語」の富姫の美と、残忍さと背中合わせの優しさ。零れ落ちるような美しいセリフの数々。「黒蜥蜴」には、「天守物語」が持つ美点のすべてがある。
私は女優の演じる「黒蜥蜴」は中谷美紀のものしか見たことがないが、美輪版を見ると、三島が戯曲化で目指したものは、泉鏡花の「天守物語」で、かつ、黒蜥蜴/緑川夫人を演じるのに適しているのは女優ではなく、女方であるように思う。美輪明宏しかり、富姫役者というべき、坂東玉三郎や篠井英介も適しているだろう。そして、どこか、後ろ暗さがあればなおいい。
美しい美輪様。右にいるのは三島由紀夫本人。
剥製という設定の三島由紀夫本人と接吻なさる美輪様。
ダンスナンバーを軽やかにこなす京マチ子の「黒蜥蜴」はミュージカル仕立て。
実は京マチ子版は、ミュージカル仕立て。それも中途半端に歌パートが入るもんだから、ミュージカル仕立てであることを知らないで見ると?????と、混乱するかもしれないが、京マチ子の優美さは十分に生かされていると思う。しかし、あの三島の紡いだ美しいセリフの到達度は、美輪には劣る。
とはいえ、さすがのOSK(大阪松竹歌劇団)出身者、ダンスも軽やかにこなし、キレキレ。この軽やかなで楽し気な京マチ子が可愛くて仕方ない。私は実は、京マチ子版が好き。これはこれでありだし、井上梅次監督、いいなあ。
そして私の愛する川口浩(探検前)が出演していることも、私が京マチ子版をひいきする理由である。川口浩の、やる気があるんだかないんだかわからない、育ちの良さからくる清潔さに所在のなさがないまぜになった、空虚な感じが最高。
緑川夫人の京マチ子。
男装してダンス。楽しそう。
私の愛する川口浩(探検前)。この頃の川口浩、最高。
「最後に勝つのはこっちさ」。かっこいい。